若手お悩み相談室のご報告

日本文化政策学会第15回年次研究大会にて、「公開収録『若手お悩み相談室』」を行い、次の5つのお悩み相談に貴重なアドバイスを複数いただきましたので、せっかくなので記事にしました。

お悩み1:researchmapについて

お悩み1:
2つ質問があり、みなさんのご意見を伺いたいと思っています。まずは、みなさんは自分の専門分野をどのようにしていますか?文化政策としているのか、それとも…例えば、経済学、社会学、人類学、文学など広い分野にしているのか…?そしてふたつ目ですが、ネット上での自分の研究者としての表し方をどのようにしていますか?最近、私はresearchmapを先輩からきちんと業績を打っておいた方がいいと言われました。さらに、その先輩からは自分のホームページもつくった方がいいと言われました。みなさんの工夫や、アドバイスがあればお聞きしたいです。
(赤い大砲さん、30代)

ベテラン教員Aさんのコメント
researchmapは作った方がいいです。特に若い人たちは自分の業績を示していくことが大事。なぜなら、共同研究をやってくれそうな人を探す時に、researchmapが重要ですし、自分も参照します。どの分野にどのくらい業績があるのかをまず見て、そのあと人を介して紹介してもらうような探し方をします。

ベテラン教員Bさんのコメント
researchmapはやはり作った方がいいと思う。科研の審査の時にresearchmapを審査員が見るといわれます。数年前まで、自分の先行する研究業績を科研の審査に出していたが、近年はresarchmapに業績を集約して見てもらうというのが、流れとしてあるように思われます。

ベテラン教員Dさんのコメント
自分は法学部出身だからといってあまり広い学問分野(法学者や行政法学者など)で示すことはしていません。自分がやっていることの分野やキーワードを書くようにしています。

研究者Cさんのコメント
結構、専門分野キーワード重要だと思います。いくつでも登録できます。キーワードに合致するとGoogle検索で上位に出るようになりました。専門分野キーワードには当然その専門の方と議論ができるような業績、素養が必要と思います。

 

お悩み2:ワークライフバランス、体調が悪い時の休み方について

お悩み2:
結婚や出産、生理休暇の取得率について、先輩方と赤裸々に話してみたいです。生理休暇なんて、ポストを得ても取れないのでは?でも、生理痛がひどい時、生理休暇が欲しいのが本音なのよ。女性の仲間や先輩方に話して、配慮はしてもらっているけど。。。生理の話って、本当に業績主義のアカデミアで話しにくいわ。あと、更年期障害も不安だわ。更年期で悩んでいる先生方はどうしているのだろう。(いや、男性だって更年期があるが) 男社会のアカデミアでそんなん聞けないよね?あー、どうしたら乗り越えれるのだろうか。不安だわ。
(織田裕二大好きさん、30代女性)

ベテラン教員Aさんのコメント
「休校届け」というのは出せるのではないでしょうか。生理休暇というのも正当な理由として扱われるのではないかと、少なくとも私のいる大学ではそのようにできていると思うのですが、他大学ではどうなのか。。。

若手教員Bさんのコメント
質問者さんがポスドクや非正規の雇用状況ですと、「休校届け」といった正規雇用者向けのものは使えないのではないかと予想します。

ベテラン教員Cさんのコメント
仕事って?、ということを考えました。最悪な状況でも60%くらいの仕事がやれるというメリハリを上手につけないと、仕事を続けるのは難しいと思います。もちろん耐えられないくらい辛い、休みたい時は休むのは重要です。
でも、仕事を長く続けていくといろいろなことがあります。子育てや介護、更年期障害、いろいろな事情があっても、有給休暇を取る時というのは、よほどの時かなって思います。結局、最悪な状況でも60%の仕事をするのがプロかなって思います。でも、こういうことをいうと今はパワハラと言われることもあるので、難しいですね。個人的にはそんなふうに、メリハリをつけて長く続けてきたという感じです。

ベテラン教員Dさんのコメント
出産などもしながら教員や演奏の仕事などを長く続けてきました。周囲との信頼関係を築いておくとか、日頃から休めるようにしておく、ということも手かなと思います。それは、「あの人が休むというのは、よほどのことかな」と周囲が気遣ってくれるような環境ということです。
演奏でも授業でも、辛い状態で無理してやった時に悪いパフォーマンスを出してしまうと、次に影響が出たりもするので、そこを見極める感じでしょうか。

ベテラン教員Eさんのコメント
広い意味でのワークライフバランスという意味でいうと、一つだけ自分に課しているルールがありまして、それは「睡眠の時間を確保する」ということです。極端な言い方をすれば(良くないことですが)、締切を守れなかったとしても睡眠時間を確保して絶対に寝る、ということにしています。
男性であろうと女性であろうと、どこか自身の体調など守るべきラインはあるかなと、あまりにも私生活を犠牲にしすぎるのも良くないですね。睡眠でしか解決できないことがあると、自分がお世話になっている鍼の先生に言われています。

 

お悩み3:査読付き論文が出せない…

お悩み3:
査読付き論文がなかなか出せません。なかなか論文としては通らないです。求められているのが、学術的なオリジナリティ、先行研究をふまえた新たな知見ということはわかるのですが、どうしたらいいでしょう。現場での実践を分析した(つもりの)内容でも事例研究や研究ノートとして捉えられたり、理論研究で新たな理論を生み出すのも難しく、アンケート調査などをして結果から得られたことを述べるといった量的調査の方が通りやすいのでしょうか。自分の研究を学術的に位置付けることの難しさを感じています。みなさんはどうでしょうか。
(ハクナマタタさん、30代)

ベテラン教員Aさん
まず、指導教員とよく相談した方がいいのではないでしょうか。それと、査読付き論文というのは“型”があります。自分のやりたいことを型にはめるというのが大事な作業です。その型を学ぶことも重要なんですね、研究をしていく時に。それに徹して、向こうが求めているものをちゃんと理解して、自分がそれに合わせるということをした方が良いと思います。

ベテラン教員Bさん
文化政策学会の「投稿論文の書き方」は非常に参考になります。自分が作ったものではないですが、翻訳して留学生にも配るくらい参考にしています。論文の書き方というのは、どのようなディスプリンでもこれに尽きると思います。
何が一番重要かというと、「先行研究」です。何が先行研究で明らかにされていて、何が明らかにされていないかを示せれば、もう半分は論文が書けています。
それと、論文の書き方って、何が一番近いかというと「特許出願」です。一度、特許出願の明細書というのを見てみるのも参考になるかもしれません。

「2019年度知的財産権制度入門」第2章より

ベテラン教員Cさんのコメント
先行研究を緻密に調べられているかというところですね。自分の興味あること、言いたいことを言うの前に、その土台を固める外堀をきちんと埋められているかが重要ですね。それぞれの学会誌ごとに多少の作法の違いはあるかもしれないが、基本的な部分は変わらないので、学術的な論文の型というのがどうあるのかというのをよくよく研究すると良いと思います。

かざま:
別の若手研究者の集まりでは、学会誌の投稿論文を読む会というのをやっているので、この文化政策領域でも同様の勉強会は開きたいですね。

研究者Cさんのコメント
さっきチラッと風間さんの話に出ましたが、分野の論文を読む研究会はすごく重要ですね。また、若手の間は先輩・後輩だけでなく、特に主にする分野以外の隣接領域の方々と垣根なく話したり学会活動に誘われるチャンスが多いと思います。私も数年間、法哲学や情報法関係の方々と定期的に研究会をしていたのがとても肥やしになりました。他分野の方の専門性について理解する機会としても重要かなと。

 

お悩み4:学振PDにおいて、所属先研究室の選び方

お悩み4:
博士号取得後の進路として、日本学術振興会特別研究員(PD)があると思いますが、お世話になる所属先の研究所や先生をどのように決めたらよいでしょうか。
(丸さん、20代)

※学術振興会特別研究員(PD)について
https://www.jsps.go.jp/j-pd/

ベテラン教員Aさんのコメント
自分の指導している学生ですが、とある先生のところに行きたいというので、私が仲介してつなぎました。ポスドクとなると、ご自分の専門を一歩前に進めることが期待されていると思います。そのためには、これから自分の研究の可能性を見出していきたい領域で、適切な先生のもとに行くことが重要なので、これも指導教員とよく相談し、その先生のネットワークというのもあると思うので、そうしたものを最大限活用するというのが大事だと思います。

中堅教員Bさんのコメント
自分はPDに落ちた経験がありますが。PDって所属を変えないといけないんですよね。当時はまだ、学振PDの応募条件に博士号取得者という条件がありませんでした。なので、なおさら自分の研究の方向性があまり定まっていない状態で申請する人も今よりは多かったと思うので、自分が学部時代にお世話になった所属先にしてみる、原点回帰してみるということをする人もいましたし、自分もそうしました。

ベテラン教員Cさんのコメント
そうした先生を探すためにも、学会発表をして、すぐ帰っちゃうんじゃなく、いろんな先生に声をかけてみて知り合っておくというのも大事じゃないかな。全く知らないところにいくっていうのは大変だと思います。

 

お悩み5:生活費、研究費の工面について

お悩み5:
研究費や生活費をどう工面しているか(どうしてきたか、悩んだことがあるか)など聞いてみたいです。
(金のボールペンさん、30代男性)

ベテラン教員Aさんのコメント
自分は社会学を専門にしていたこともあり、公務員試験の予備校講師をしていました。時間給が高いので、それで生活ができていました。ある程度一定の収入を確保するというのは命綱ですよね。他の人の話も聞いてみたいです。
同時に、講師のバイトの中で教えるということの技術も身につけました。

かざま:
大学の非常勤講師って安いですよね。非常勤講師で生計は立てられなそうです。

ベテラン教員Bさんのコメント
非常勤講師は教歴にしかならないですね。教歴は大事ですが、それでもバカらしいくらい安いですね。
それと、こういう言い方がいいかわかりませんが、私は寄生してました。親に寄生したり、夫に寄生したり。誰かにくっついて食べさせてもらおうと思っていた時期がありました。
その頃というのは、研究会に行く往復の電車賃の数百円もすごく惜しい、すごくつらい状況がありました。そんな時期、いずれは私が面倒みるからとだまくらかして、親や夫が支えてくれた部分がありました。

中堅教員Cさんのコメント
自分も寄生っていうのには共感します。自分もそうでした。今は出世して定収入が入るようになり、親の面倒もみていて、少しずつ返しており。そういう意味では、長い時間軸のトータルで帳尻を合わせるということなのかなって思います。
参考になるかわからないですが、自分がお金がない時期に意識していたのは、最低時給というのを決めていました。この金額以下の仕事はしない、金額以下の仕事は自分の研究のプラスになるものだけ、ということです。
それと、貯金が自分の身を守るという局面もありました。最低いくらあれば、何ヶ月生きられるなとか、そうした自分の身を守る貯金をしておくっていうのも大事な気がします。

ベテラン教員Dさんのコメント
抱え込まずに「困ってます!」「誰か助けて!」って周囲に言ってみることじゃないかなと、思います。いろんなかたちで助けてくれる人って案外周囲にいたりします。抱え込まないっていうのも大事じゃないかなって思います。

 

ご参加いただき、さまざまなコメントをお寄せくださりありがとうございました。